憲法:

2013年5月27日(月)

96条改正問題を考える 憲法の改正回数と改正要件

ここで、自民党などの「他国は、憲法を何回も改正している」という主張について考えてみましょう。諸外国における第2次世界大戦後の憲法改正回数は下の表の通りです。

アメリカでは、戦後6回の修正(アメリカ合衆国憲法では、改正でなく修正と称されています。)が行われています。しかし、修正の発議と承認には、上院・下院の双方の出席議員の三分の二以上の賛成で発議し、全50州の内四分の三以上の州議会の賛成を必要とします。日本と比べて、修正の要件が緩やかであるわけではありません。また、改正内容を見ると、1951年に「大統領の三選禁止」が、1971年には「選挙権年齢の満18歳への引き下げ」が行われるなど、あくまで「一部改正」にとどまっています。一番新しい改正は、1992年に行われた「連邦議員の任期途中の歳費引き上げの禁止」です。日本では法律で決めるような細かいことのようですが、立憲主義に基づき「権力者を縛る憲法」 として改正されていることがわかります。

戦後の憲法改正で、回数の多い国としてドイツとフランスがあります。ドイツは、59回フランスは27回改正しています。しかし改正手続きの要件を見ると、ドイツでは「連邦議会の三分の二以上の同意があり、かつ連邦参議院の三分の二以上の同意」が必要であり、フランスでは、「両議院の可決と国民投票での承認、または、両院合同会議での五分の三以上の賛成」を必要としています。これを見ると、日本やアメリカの規定よりも若干は緩やかですが、一般の法律よりも厳しい要件となっていることは、明らかです。

また、ドイツでは東西ドイツの統合や欧州連合(EU)への加盟など、対外的な状況の変化に対応するために基本法改正(ドイツでは憲法でなく基本法と呼びます)が必要とされたことや、日本では一般の法律レベルで規定されている内容を基本法で定めていることも、修正回数の多い理由となっています。例を挙げれば1969年には、「連邦参議院提出法案の送付期限」を定める条項が追加され、1983年には、「政党の資産公開義務」が追加されています。

その他の国の憲法改正要件を見ると、15回改正しているイタリアでは、「3か月以上の間隔を置いた、連続する2回の審議における各議院の可決(2回目の可決は、各議員の過半数が必要)」が改正要件ですが、議員の五分の一、50万人の有権者または、5つの州議会の要求がある場合は、国民投票に付され、有効投票の過半数が承認しない限り改正が成立しないと定められています。

このように見てくると、憲法の改正回数と改正要件の厳しさは必ずしもリンクしていないことがわかると思います。

国名

改正回数

改正要件

アメリカ

6回

上院・下院の三分の二以上の賛成、四分の三以上の州議会の承認
ドイツ

57回

連邦議会の三分の二以上の賛成、連邦参議院の三分の二以上の賛成
フランス

27回

各院の過半数の賛成、両院合同会議で五分の三以上の賛成
イタリア

15回

各院の過半数の賛成、3か月以上経過後に各院の三分の二以上の賛成
オーストラリア

3回

総督による提案、憲法改正国民投票での可決(連邦全体の総得票数の過半数の賛成と過半数の州における賛成)

(国立国会図書館作成 調査と情報第687号を基に作成)

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