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2018年10月9日(火)

東京教組教育研究集会 基調報告(案)

2018年度  東京教組教育研究集会  基調報告(案)

         「教え子を再び戦場に送るな」

「偏狭なナショナリズム」の台頭を許さず、子どもの人権を保障し、ゆたかな学びを構築するカリキュラムづくりをすすめよう

1.      はじめに

 2020年に開催が予定されている東京オリンピック、パラリンピック。2年後の開催に向け、過去最大規模である8万人のボランティアが必要ということで、その主力を担う大学生の確保に向け、文部科学省は7月、大会期間中の授業の変更を認め、ボランティア参加を促すかのような通知を出しました。大会期間中はちょうど大学では前期試験になります。そこで、休日も授業を行うことにより、テスト日程を繰り上げるというのです。オリンピック、パラリンピックのためなら、大学の自主性、教育の自治を奪いかねないこの事態に、「国家のためならば」何事も許されてきた時代、「個人」よりも「国家」が優先される、あの時代が垣間見えてきます。そして世界では「偏狭なナショナリズム」が、アメリカを始めヨーロッパ諸国など各国で台頭しつつあります。

2.「新学習指導要領」と呼応した道徳の教科化が実施へ

 2018年度より、幼稚園教育要領が全面実施となり、小、中学校では新学習指導要領の移行期間に入りました。また、高等学校新学習指導要領が3月に告示されました。この学習指導要領では子どもに「何ができるようになるか」を問い「これからの時代に求められる資質・能力を育む」ことに主眼がおかれ、大綱的基準である学習指導要領に、指導方法や評価まで規定しています。外国語教育の早期化・教科化も始まっています。このほかにプログラミング教育の先取りを行っている学校もあります。すでに限界だった週時数は、飽和状態を超えてしまいます。その結果「総合的な学習の時間」や「委員会活動」を減らしその時間にあてている学校も出てきています。生徒の深い学びを追求することができる「総合」の時間や生徒の民主的自主活動を育てるべき委員会活動を減らすというのは大きな問題です。また、小学校においては今年度から検定教科書を利用した道徳の授業も始まりました。「道徳」が「特別の教科」となったことにより「評価」が求められることになりました。数字による評価はされないとされたものの、文章で表記するということは子どもの内面を評価するという「子どもの心のありよう」まで踏み込むことになり、決して許されないことです。またこの「道徳」の授業が一定の「正しいあり方・考え方」を子どもたちに教え込むこととならないよう、私たちは子どもの視点に立った、子どもが主体となる教育実践、研究を続けていかなければなりません。

3.今こそ「人権」を大切にした教育を

 2018年4月、足立区の中学校で行われた中学校3年生を対象とした「性教育」の授業について、自民党の都議会議員が「不適切な性教育」だと都議会で批判、東京都教育委員会は「性交」などの言葉を授業で使った点が「不適切」「性交を助長する可能性もあり、中学生の発達段階にはふさわしくない」として区の教育委員会に改善を求め指導しました。文科省の調査では高校が妊娠を確認した生徒は2000人を超えており、そのうち3割が自主退学をしています。授業では望まない妊娠による人工中絶などについて考えさせ、中絶可能な期間の法律的な問題などを教えていましたが、都教委は中学校の学習指導要領に「性交」の文字がなく、指導要領を逸脱した授業として「問題があった」としています。性的虐待や性暴力などによる「望まない妊娠」の問題がなくならないからこそ、このような適切な性教育をおこなうことが、リプロダクティブ・ヘルス・ライツの観点からも必要です。
 そしてこのような自治体による教育内容に対する介入は、愛知県名古屋市で、文科省前事務次官の学校での講演について問題視するなど、相次いでいます。1976年の最高裁判決では教育内容に対する「国家的介入についてはできるだけ抑制的であることが要請される」としています。政府や自治体は子どもや地域の実態に応じて行われる各学校の個別の授業内容に介入することなく、学校の教育課程編成権を尊重し、教育環境の整備に努めるべきです。

 今回の学習指導要領の総則・各教科に「障害のある子ども(生徒)などへの指導」が書き込まれました。しかし、障害者権利条約の批准や差別解消法の施行など様々な法改正が行われているにもかかわらず、中教審最終答申では明確に項目立てされていた「インクルーシブ教育」という文言や、インクルーシブ教育を実現させる上で重要となる「合理的配慮」という概念には全く触れられていません。

 その結果、「障害」のある子どもの地域での学びが進まず、特別支援学級や特別支援学校に在籍する子どもが急増しているのが現状です。障害者権利条約によるインクルーシブ教育を推進していくために、私たちは合理的配慮に対する意識を高め、学習を深めていくことが重要です。   

 朝鮮学校の「高校等就学支援金」制度からの除外と補助金の凍結・縮減については、2017年の国連人権理事会での第3回国連UPR日本審査において、日本政府は「高校等就学支援金」制度を朝鮮学校にも適用するよう勧告されています。また8月の国連人種差別撤廃委員会による日本政府の第1011回合同定期報告書審査においても、委員から前回の勧告を履行していない日本政府に対して、朝鮮学校無償化制度適用除外に対する意見が相次ぎました。しかし無償化適用除外に対する控訴審も9月の大阪高裁判決では逆転敗訴となってしまいました。私たちはより一層支援の運動を強めていかなければなりません。

 政府は「骨太の方針」により外国人労働者の流入拡大を認める方針へと転換し、今後50万人超の外国人労働者の流入が見込まれています。それに伴い東京都でも外国とつながる子どもの数は大幅に増加しています。日本語指導に関しても、文科省が教職員の加配定数を基礎定数化しましたが、18人の子どもに対し1人の加配となっているため、外国につながる子どもが点在している地域では十分でなく母語、母文化教育の保障なども不十分です。私達東京教組は第31回定期大会で「子どもの最善の利益のために働く」ことを宣言しましたが、外国につながる子どもに限らずマイノリティーとされている子どもたちの言語・文化が尊重されながら教育を受ける権利が保障される教育実践を、おしすすめていかなければなりません。

4、「子どもの権利条約」に根ざした教育を

 2017年12月、政府は生活保護費のうち食費など生活費にあてる「生活扶助」を約160億円削減し、2018年10月から3年かけて最大5パーセント程度減額することを決めました。6月に文科省は生活保護基準の見直しに伴い就学援助制度にできるだけ影響を及ぼさないようにとの通知を発出しています。しかし、前回の減額の際にも89市町村で就学援助基準が引き下げられ多くの子どもが対象外になりました。また今回、母子加算が平均2割削減されることとなりました。日本ではひとり親家庭の貧困率が50.8パーセント(2017国民生活調査)でそのほとんどが母子世帯であり、OECD調査でも調査国中最下位になっています。今年で施行して5年になる「子どもの貧困対策法」を実効あるものにしていくために、子どもの権利条約、国際人権規約の具現化を早急にすすめていかなければなりません。

 厚労省は2017年、児童虐待相談件数が13万3778件となり、27年連続で増加していることを明らかにしました。児童相談所では2007年からの10年間で相談にああたる児童福祉士の数は1.5倍に増えましたが応談件数は3.3倍となっており、十分に相談できていないのが現状です。児童相談所は改正児童福祉法により区に設置が認められたものの進んでいない現状があります。貧困と虐待の相関関係はかねてから指摘されています。家庭教育を総合的に支援するためと「家庭教育支援法(仮称)」が国会に提出されるとの予測もありますが、今必要なのは親や子どもの「あるべき姿」を強制する法律ではなく、子どもの育つ権利や生きる権利を損なわない実効ある生活保障や教育全体の無償化なども含む経済支援です。過度の競争的な環境が子どもを追い詰め、いじめや虐待、不登校につながっていると「子どもの権利委員会」から再三指摘されているにもかかわらず、日本政府は「そのような認識を委員会が持ち続けるのならば客観的な証拠について明らかにされたい」と迫るなど、委員会からの指摘・勧告に対して誠実に答えていません。

 全国学力・学習状況調査において、その結果を学校評価や人事評価に反映させるという大阪市の例のように、子どもを点数学力だけで選別していくという過度な競争主義がますます助長されているのが実情です。

 また少年法の適用年齢の引き下げが2016年2月に法制審議会に諮問され、現在も議論が続いています。法制審は今後本格的な議論に入るとしていますが、子どもたちの背後にある様々な社会的問題や子どもの人権が十分に保障されていないという現状をまずは解決していくことが重要であり、自己責任の強調や厳罰化による「規範意識」という個人の問題に帰すことで行政の無策を覆い隠しているようにしか見えません。

 今こそ子どものおかれている状況を子どもの人権の視点から捉えなおしていくことが必要です。それは、憲法の理念の実現につながり、平和・人権・環境・共生を尊重する社会を主体的に築いていく力となるものです。私たちは子ども達の「ゆたかな学び」の必要性を地域・保護者に訴えていかなければなりません。

5.そして私達が考えとりくむべきものは何か

 今世界では、アメリカを始めとする多くの国で「自分の国さえよければよい」という「自国第一主義」をかかげる勢力が力を伸ばしてきています。それは日本も同じです。道徳の教科化により今年は中学校の道徳教科書が採択されましたが、

 その内容は22の内容項目(徳目)を網羅するものであり、特に「愛国心」に関しては「日本のすばらしさ、美しさ」を強調するものも多く、世界の「偏狭なナショナリズム」に通じるものが多く見られます。

 そこで、今回の教研集会全体会では、「嘘に支えられた『道徳』」と題して、ドイツ文学翻訳家である池田香代子さんに、講演をしていただきます。世界が「偏狭なナショナリズム」へと向かうなかで、私たちはどのように行動すればよいかを一緒に考えていきましょう。

 そして、私たちが今まで積み重ねてきた「平和」「人権」「環境」「ジエンダー平等」などの実践を貴重な教育財産として次世代に引き継いでいくことが大切です。実践の交流を通して仲間のつながりを改めて確認し、職場から支部へ、支部から東京全体へと連帯の輪を広げていきましょう。

教育研究集会2018

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