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教育研究

東京教組は、各教科・領域の教育研究を年間を通じて行っています。
毎年、10月には、教育研究集会を開催し、全都の教育研究をまとめて発表します。

教育研究資料

2023年度  東京教組教育研究集会  基調報告

「教え子を再び戦場に送るな」

誰もが自分らしく生きていける平和な社会を実現するために、

子どもの人権を中心に据えた教育をすすめよう

1.はじめに

ロシアのウクライナに対する軍事侵攻は1年半を過ぎても解決の糸口が見えないまま、犠牲者だけが増えています。岸田首相は安保関連三文書を決定し、防衛費を過去最高まで引き上げ、日本は敵基地を攻撃できる国になろうとしています。世界的な石油価格の高騰や日本経済の後退が物価の上昇を引き起こし、子どもたちの生活にも暗い影を落としています。今年5月COVID-19感染症の法律的位置付けが季節性インフルエンザと同じ「5類」へと引き下げられ、学校生活への制限が減らされ、2020年以前の姿に戻ろうとしています。2021年度文科省調査によると、不登校の子どもの数は244,940人にのぼり、増加率は24.9%になっています。文部科学省、東京都は学力・学習状況調査で、体力テストで、WISC-Ⅳで、スピーキングテストで子どもを測り、数値化し、分断しています。教員のマニュアル化も進んでいるなか、2024年度以降の小学校の教科書においては学習の進め方まで示す教科書が多くなり、そのような教科書が多く採択される傾向が見られました。次期指導要領改訂に向け、中央教育審議会が行われています。働き方改革、教員不足や不登校児童・生徒の増加などの課題を受け、持続可能な教育制度、教育課程への変換が求められています。

昨年の東京教研の記念講演でアーサー・ビナードさんは「教え子を戦場に送るな」というスローガンに対して、戦場とはどこなのかという問いを立て、「ここがすでに戦場であるかもしれない」と述べました。防衛費ばかりが増え、子どもの貧困率が上がり続けているにも関わらず、多くの大人は声を出そうとしていません。これが私たちの携わっている教育の結果です。

この社会をつくり維持しているのも教育ですが、この社会を変えていくのも教育です。私たちは自らの実践をもう一度振り返り、子どもたちを社会の主体である市民として認め、ともに学んでいく必要があるのではないでしょうか。

2.子どもの権利条約、こども基本法を中心に

2023年4月1日こども基本法(2022年6月成立)が施行され、併せてこども家庭庁が発足しました。こども基本法は子どもの権利を包括的に明記した法律で、子ども権利条約の理念に基づいてつくられています。第3条(基本理念)には、「第1項全てのこどもについて、個人として尊重され、その基本的人権が保障されるとともに、 差別的取扱いを受けることがないようにすること。」「第2項適切な養育、生活の保障、愛されながら保護されること、福祉に係る権利、教育を受ける権利が与えられること。」「第3項発達の程度に応じて、全ての事項に関して意見表明する機会や社会活動に参画する機会が保障されること。」「第4項 年齢及び発達の程度に応じて、その意見が尊重され、その最善の利益が優先して考慮されること。」があげられています。これに伴い、2022年12月に12年ぶりに「生徒指導提要」が改訂されました。1.5 生徒指導の取組上の留意点 1.5.1 児童生徒の権利の理解として、「児童生徒の基本的人権に十分配慮し、一人ひとりを大切にした教育が行われることが求められています。生徒指導を実践する上で、児童の権利条約の四つの原則を理解しておくことが不可欠です。」と述べられており、学校の様々な場面での生徒指導についても、子どもの権利に沿って見直されようとしています。

関東ブロックカリキュラム編成講座in群馬の記念講演講師の末富芳さんは、「こども基本法・子どもの権利から実現する子どもの最善の利益」の中で、「こども基本法・教育基本法体制のもと子どもたちとつくる『幸せ』な学校を」「『させる』と『指導』をやめ、『できる』と『対話』を」「意見表明と参画で『幸せ』な学校づくりの成功体験を。」「子どもたちといっしょにしている、いっしょにしてみたい学校づくりを」と提案しました。

また、東京教研総会学習会「平和と人権の教育をどう進めるか」で、講師の池田賢市さんは「人権侵害、差別の事実から伝えると権利は具体的になる。差別を発見する小さな声に耳を傾けることが大事です。補い合い助け合える『仲間づくり』『集団づくり』につながる実践を心がけ、日頃から教職員が子どものたちと『おしゃべり』しているかが大事です」と述べました。

自分たちが学び生活する場である学校において自分たちの考えが反映されるような機会を多くもつことで、社会に対して主体的に行動することができるように育つのではないでしょうか。子どもたちや同僚と対話しながら、子どもの最善の利益を考えた学校に変えていくとりくみを進めていくことが大切です。

3.平和教育

戦争は、人権侵害の最たるものです。私たちは「教え子を戦場に再び送るな」というスローガンを掲げ、敗戦の経験を継承しながら、平和教育を築いてきました。しかし、戦争を体験した世代は減り続けており、戦争の記憶を直接伝えることは年々難しくなっています。その一方で、岸田首相は安保関連三文書を決定し、防衛費を過去最高まで引き上げ、憲法9条を変えないままで、実質的に日本を戦争する国へとつくり変えようとしています。

東京教研総会において、池田賢市さんは、広島の平和学習の経験から、「広島のピースボランティアの方の話す内容が、記念資料館の研修によって被害中心の画一的な内容になってしまっている。「個人(体験)」と「社会(構造、政治的)」の両方で思考し、全体で捉えることが大切です。」と述べました。また、「『平和』は道徳では解決しません。」とも述べました。平和教育は、目の前の子どもたちの未来に対する課題解決の学習に他なりません。戦争の記憶の継承とともに、子どもの人権から捉え直すことも必要であると考えます。

昨年度から東京教組「平和の旅」という学習会を連続的に企画しています。フィールドワークを通して、戦争と差別の記憶をたどり、学びなおし、教材化し、平和教育を探っていきましょう。

4.インクルーシブ教育

2022年9月に国連障害者権利委員会より日本政府に対して勧告(総括所見)が出されました。「日本の教育において特別支援教育が進行しており、分けられた状態が長く続いていること」や「障害のある子どもに対する合理的配慮の保障が不十分」であることに懸念を示すとともに、「障害のあるすべての子どもたちの通常の学校へのアクセスを確保し、通常の学校が障害のある幼児児童生徒の通常の学校への在籍を拒否することを許さないための非拒絶条項と政策を導入し、特別支援学級に関する通知を撤回すること。」が強く要請されました。しかしその一方、特別支援学級や特別支援学校の児童・生徒在籍数は過去最多を続けています。これは、不登校の子どもの数の増加とともに考えると、あるがままの姿では学校、ひいては日本の社会で認めてもらえないという不安の現れであると考えます。学校や社会がだれもが安心して過ごせる場所になるよう、子どもの人権に基づく当事者の対話による解決が大切です。

子どもの人権連第38回学習会の中で、講師の和田明さんは「国連の勧告にあるようなインクルーシブ教育を進めると現場は困るという職場環境であることもよくわかっています。しかしその上で、障害があるままで生活していきやすいようにするにはどうしたらいいのか、分会単位で考えてみてください。」とのべました。同じく講師の大谷恭子さんは、「だれもがいてあたり前、あるがままの自分が認められる、アイデンティティーが侵されないということを意識することによって、学校や地域が変わってきます。意識をもってとりくんでください。」と述べました。これまでの実践をふまえて、あるがままの子どもを認めるインクルーシブ教育に一層とりくんでいきましょう。

5.あらゆる差別を許さない

関東大震災から100年の今年は、朝鮮人虐殺の事実を振り返る年でもあります。小池都知事は今年も関東大震災の朝鮮人犠牲者追悼式典に追悼文を送りませんでした。過去の重大な人権侵害について目を瞑ることは許されません。私たちは、朝鮮学校との交流を続け、お互いを知り合うことからはじめています。今年度も交流を継続し、学びを積み上げていきます。

2022年のジェンダーギャップ指数で日本は世界146カ国中125位と過去最低を記録しています。教育が果たす役割は大きいです。東京都ではようやく来年度の高校入試から男女別の定員をなくすことになりました。2022年12月に改訂された「生徒指導提要」にも、「12章 性に関する課題」とあり、東京都の人権教育プログラムも2022年度から改善が見られます。東京教組で積み重ねてきたジェンダー平等や性教育の実践をもう一度現場で広げ、発展させていくチャンスです。日々の小さなとりくみから積み重ねていきましょう。

「生徒指導提要」の「13章 多様な背景を持つ児童生徒への生徒指導」には子どもの人権の立場から指導の留意点などが挙げられています。あらゆる差別を許さない、子どもの人権を守る視点で確かめる必要があります。

6.これからの教育を地域で

このように子どもの権利という視点で見直すと、様々な課題が見え、私たちが学ばなければならないことが見えてきます。教科教育の進め方や、教育課程、カリキュラム編成、部活動の社会教育への移行、教職員の配置なども、子どもの権利という視点で見返すと、新たなかたちが見えてくるのではないでしょうか。

今だからこそ、人と人がつながり、平和的に様々な問題を解決する社会を子どもたちとともにつくり上げていかなければなりません。これまで組合が教研活動でとりくんできた教育研究の価値を捉え直し、新たな教研活動に発展させていきましょう。地域の子どもの最善の利益のために、日々の教育実践を積み上げていきましょう。