お知らせ:

2020年10月2日(金)

2020年度  東京教組教育研究集会  基調報告(案)

2020 教研チラシ

「教え子を再び戦場に送るな」

危機を乗り越え、みんなが安心して生活できる社会を実現するために子どもの人権を保障し、ゆたかな学びを構築するカリキュラムづくりをすすめよう

 

 

はじめに

2月27日、第15回新型コロナウイルス感染症対策本部において、安倍総理が突如「全国全ての小学校、中学校、高等学校、特別支援学校について、3月2日から春休みまで臨時休業を行うよう要請しました。この「要請」が学校現場や家庭に与える影響について考えていたのか、休校の科学的根拠は何なのか、総理が「要請」という形でも一方的に休校を求めることができるのか、など様々な問題があった「要請」でした。そして、その後の緊急事態宣言(4月7日)、宣言の全国拡大(4月16日)、宣言期間の延長(5月4日)と、休校は続き、子どもたちは2か月間、学校で学ぶことができない状態になってしまいました。

この間、私たちは休校中の課題づくりを行ったり、子どもたちの家庭での様子を確認するために、電話連絡や家庭訪問を行ったりするなど自らがウイルスに感染するかもしれないという恐怖を抱える中で働いてきました。

プリントの教材を作ったり、動画で教材を作って配信したりしながら、何とか子どもたちが学ぶことができるようにしたいと多くの教員が試行錯誤をし、努力をしたことでしょう。そのような中で、子どもたちにとって学校とはどんな場所なのか、学校に集う意味とは何なのか、子どもにとって学ぶ意義とは何なのか、など教育の在り方について考えることもあったかもしれません。

6月に学校が再開されたとき、子ども、保護者、そして教員の多くは、おそらく「もう休校はしたくない」と思ったのではないでしょうか。学校は、新型コロナウイルス感染症の対策で検温や消毒などの仕事が加わり、「密を避ける」などの理由で様々な教育活動が制限されています。そのような中でも子どもたちはお互いにかかわりを求め、様々な活動を楽しみながら学んでいます。

「2か月間の遅れを取り戻せ」と夏休み期間が短縮され、6時間授業や土曜授業が増やされるなど、学校現場は息苦しくなっています。また、休校期間中の学習が家庭にゆだねられたことによって家庭環境による学習機会の差が生じ、そのことが子どもたちの学習理解の格差をもたらしています。こうした状況の下、子どもたちに「豊かな学び」を保障していくためにはどうすればいいのか、私たちは考えていかなければなりません。

「新学習指導要領」の完全実施と新型コロナウイルス感染症の影響

「新学習指導要領」は小学校では今年度から実施され、中学校では来年度に本格実施されます。これによって、改悪された教育基本法に基づく教育が完全実施されることになります。

昨年度、憲法学習会で講師をしてくださった本田由紀さんは、その著書「教育は何を評価してきたのか(岩波新書)」の中で保守層は、教育基本法と学校教育法を変更することによってその中に「資質」≒「態度」の形成の義務化のための基盤を仕込み学校教育に新たな水平的画一化(特別の教科「道徳」により、子どもの心の在り方を一様に規定したり、〇〇スタンダードや校則などにより特定の均質なふるまいや心の在り方を求めたりするもの)を組み込んだと書いています。また、「点数学力」や「偏差値」など「日本型メリトクラシー」と「生きる力」「人間性」などという言葉で表現される「ハイパーメリトクラシー」による序列化も強力に作動していると述べています。

休校中に学習課題にとりくめなかった子どもの保護者は働くことで精いっぱいで子どもの様子が見られなかったり、子どもの学習や生活に関心を向けていなかったりという場合がほとんどでした。子どもたちの置かれた生活環境が「点数学力」にも「「生きる力」にもかかわっているわけです。学校において様々な視点での序列化が進めば、様々な課題を抱えた子どもたちはさらに困難な状況に置かれてしまうでしょう。

また、水平的均一化が進めば学校現場には同調圧力がさらに強まり、教員にとっては働きにくく子どもにとっては過ごしにくい学校となっていくでしょう。「授業時数の確保が至上命題」とされれば教え込みとテスト評価に追いまくられることが学校の日常となってしまうかもしれません。また、新型コロナウイルス感染症にかかわって様々な差別問題が生じていますが、こうした問題を解決していくためには多様なものの考え方を大切にするという視点が重要であると思います。

休校中には子どもたちの学習を保障する取り組みとして「オンライン学習」が注目され、ICTを用いた「個別に最適化された学習」が推奨されました。そして、こうした学びの実現が「Society5.0」という社会像を実現するための教育の在り方としてもてはやされているように思えます。

しかし、そうなのでしょうか。各家庭にPCやタブレットが置かれ、皆同じようにオンラインで学習ができる状況になれば、子どもの学習理解や学習進度に合わせ、個別に最適化された学習コンテンツが提供されれば子どもの豊かな学びを実現したことになるのでしょうか。

こうした学習は子どもに「正しい答え」と「正しい考え方」を獲得させるもので、学習を通して、子どもたちの思考や認識は「正解」に沿って組み立てられていきます。こうした学習において「正しい答え」や「正しい考え方」は子どもとともに創り出すものではなくあらかじめ用意されているものなのです。この用意された「正しい答え」や「正しい考え方」が子どもたちをどこに導こうとしているのか、私たちは注意深くそれを見つめなければなりません。

「子どもの権利条約」に根ざした教育を

 国連児童基金(ユニセフ)は9月3日、先進・新興国38カ国に住む子どもの幸福度を調査した報告書を公表しました。その結果、日本の子どもは生活満足度の低さ、自殺率の高さから「精神的な幸福度」が37位と最低レベルでした。なぜ、このような結果となってしまうのでしょう。その原因として子どもの権利が日本においてないがしろにされているということが考えられます。

 子どもの権利委員会が行った日本の第4・5回統合定期報告書に関する総括所見(2019年1月14日~2月1日に採択)では、日本の教育について以下のような指摘を受けています。

・とくに民族的マイノリティ(アイヌ民族を含む)、被差別部落出身者の子ども、日本人以外の出自の子ども(コリアンなど)、移住労働者の子ども、レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダーおよびインターセックスである子ども、婚外子ならびに障害のある子どもに対して現実に行なわれている差別を減少させかつ防止するための措置(意識啓発プログラム、キャンペーンおよび人権教育を含む)を強化すること。

・「高校授業料無償化制度」の朝鮮学校への適用を促進するために基準を見直すとともに、大学・短期大学入試へのアクセスに関して差別が行なわれないことを確保すること。

朝鮮学校が「高校授業料無償化」から排除され、さらに自治体による補助金カットや幼保無償化から排除されるなど朝鮮学校に対する差別は広がっています。

・年齢制限を設けることなく、その子どもに影響を与えるすべての事柄について自由に意見を表明する権利を保障し、かつ、子どもの意見が正当に重視されることを確保するよう、促す。

・統合された学級におけるインクルーシブ教育を発展させかつ実施すること、ならびに、専門教員および専門家を養成し、かつ学習障害のある子どもに個別支援およびあらゆる適正な配慮を提供する統合された学級に配置すること。

・思春期の子どものセクシュアルヘルスおよびリプロダクティブヘルスに関する包括的政策を採択するとともに、セクシュアルヘルスおよびリプロダクティブヘルスに関する教育が、早期妊娠および性感染症の防止にとくに注意を払いながら、学校の必須カリキュラムの一部として一貫して実施され、かつ思春期の女子および男子がその明確な対象とされることを確保すること。

子どもたちが性に関する情報を得るのは、ほとんどがインターネットやSNS.これらから得られる情報の多くが間違ったものであるために様々な性被害が生じています。昨年度、都教委は「性教育の手引き」を改訂し、「性交」や「避妊」、性的マイノリティーなどに関して指導できるようになったが、小学校の性教育はほとんど変わらないという不十分なものでした。

・放射線の影響を受けている福島県在住の子どもへの、医療サービスその他のサービスの提供を強化すること。教科書および教材において、放射線への曝露のリスクについておよび子どもは放射線への曝露に対していっそう脆弱であることについての正確な情報を提供すること。

・ストレスの多い学校環境(過度に競争的なシステムを含む)から子どもを解放するための措置を強化すること。

2020年4月8日に国連子どもの権利委員会は新型コロナ感染症(COVID-19)に関する声明を出しています。この中で、オンライン学習については「教室における学習に代わる創造的な手段ではあるが、テクノロジーもしくはインターネットへのアクセスが限られているもしくはまったくない子ども、または親による十分な支援が得られない子どもにとっては、課題を突きつけるものでもある。このような子どもたちが教員による指導および支援を享受できるようにするための、オルタナティブな解決策が利用可能とされるべきである。」とオンライン学習が教育機会の格差を生じさせないよう方策を講じることが求められています。

また、家庭環境が劣悪であったり、保護者による暴力を受けていたりするような子に関して、「子どもたちは、外出制限により、家庭におけるいっそうの身体的および心理的暴力にさらされ、または過密でありかつ最低限の居住適正条件を欠いた家庭で過ごすことを余儀なくされる可能性がある。障害および行動上の問題がある子どもたちおよびその家族は、密室においてさらなる困難に直面しかねない。各国は、電話およびオンラインによる通報・付託制度ならびにテレビ、ラジオおよびオンライン経路を通じた注意喚起・意識啓発活動を強化するべきである。COVID-19パンデミックの経済的および社会的影響を緩和するための戦略にも、子どもたち(とくに貧困下で暮らしている子どもおよび十分な住居にアクセスできていない子ども)を保護するための具体的措置を含めることが求められる」と述べ、困難な状況に置かれている子どもたちの生活に対してしっかりと目を向け対策を講じることを求めています。

 新型コロナウイルス感染症の出口が見えない中、今後の子どもたちへの対応を考えるうえでこれらは大切な視点となることでしょう。また、先に述べた安倍首相の「休校要請」が保護者、子ども、教員の考えをないがしろにされて出されたものだけに「今回のパンデミックに関する意思決定プロセスにおいて子どもたちの意見が聴かれかつ考慮される機会を提供すること。子どもたちは、現在起きていることを理解し、かつパンデミックへの対応の際に行なわれる決定に参加していると感じることができるべきである。」という意見が出されていることは重要です。

毎回、子どもの権利委員会から様々な課題を突き付けられても日本の教育は改善されません。しかし、子どもたちが安心して生活し、自分の考えや思いをのびのびと表現し、自らを肯定的にとらえ成長していくためには、子どもの権利が守られなければなりません。子どもの権利を守るために、職場や地域で話し合いながら少しずつ解決する努力を私たち教員もしていくことが大切です。

 

そして私たちが考えとりくむべきものは何か

被爆から75年目を迎えた今年の8月6日、広島では「原爆死没者慰霊式・平和祈念式」が行われました。松井一実市長は平和宣言で、2017年に国連で採択されたが発効していない核兵器禁止条約について、日本政府に「締約国」となるよう訴えましたが安倍首相(当時)はこれについて、米国の核抑止に依存する立場から否定的な姿勢を崩していません。軍事力による「積極的平和主義」を標榜し、憲法の改悪によって基本的人権をないがしろにしようとする安倍内閣を継承する現内閣は新型コロナウィルスの猛威が世界中で吹き荒れる中、世界と日本を危機的な状況に追い込む危険性があります。

トランプ大統領が演説でCOVID-19を「中国ウィルス」とわざわざ言い換え中国を批判したり、欧州の各国が国境封鎖と国民の移動制限に乗り出したりするなど世界中に差別と排外主義が広まる恐れがあります。

こうした危機的な状況を、「食料や土地の収奪、国家・民族的な衝突、紛争の世界化によって解消しようとするのではなく、理性的・科学的・共同的な方法、理念、共感する力、それを可能にする歴史的認識や価値意識の獲得で解決」(佐貫浩 教育学者・縫製大学名誉教授)すべきです。

今年度のスタートは、新型コロナウイルス感染症への対応に振り回されてしまいましたが、先に述べたようにこうした状況の下でも改悪された教育基本法の理念は着実に教育を蝕んでいます。

私たちの行う教育が、「問題解決能力」や「生きる力」など、経済的な発展を担うための諸能力によって、子どもたちを序列化して差別し、「国を愛する心」などの「資質」≒「態度」を養うことになってしまってはいけません。

危機的な状況である今だからこそ、子どもたちの多様性を大切にし、人同士がつながり、平和的に様々な問題を解決しようとする社会の実現を子どもたちとともに創り上げていくという、これまで組合が教研活動でとりくんできた教育研究の価値を今こそ輝かせなければなりません。

みんなが幸福に生きていくことができるという憲法の理念を実現した社会を創るために私たち教職員はどのような教育の未来を考え、実践を作り上げていけば良いのか教研集会を通してともに考え、実践していきましょう

2020 分科会レポート

 

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