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2022年10月5日(水)

2022年度  東京教組教育研究集会  基調報告(案)

「教え子を再び戦場に送るな」

誰もが自分らしく生きていける平和な社会を実現するために、

子どもの人権を中心に据えた教育をすすめよう

1.はじめに

2022年2月24日、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻がはじまりました。戦争の恐ろしさを伝える報道とともに、ロシアの脅威、中国の脅威がさかんに宣伝されています。自民党からは反撃能力などと、憲法違反の「防衛力」を求める声が出ています。戦後77年、私たちはジリジリと戦争への道を進んでいるのではないでしょうか。

6月に安倍元総理が銃撃を受け死亡する事件がおき、直後の参議院選挙では、改憲勢力が3分の2を越えました。教育基本法を改悪し、民主主義を否定し続けた安倍元総理大臣の国葬が閣議で決定され、世論の圧倒的な反対にも関わらず実施されてしまいました。統一教会と自民党の関係が明るみになり、批判を浴びていますが、政府の対応は不十分です。岸田首相は、国民の意見を全く聞かず、誰しもが社会科で学ぶ、日本国憲法の3原則 国民主権、基本的人権の尊重、平和主義が首相、国会議員によって踏みつけられています。

COVID-19の感染拡大は止まらず、マスク、黙食、「新しい生活様式」の学校生活も3年目となりました。オンラインによる学習、一人一台のタブレットにも慣れることにより、与えられた課題をゲーム的にこなすことを主体的な学習と捉えて、学習の受身化が進んでいるように感じます。

文部科学省、東京都は学力テストで、体力テストで、WISC-Ⅳで、スピーキングテストで、あらゆることで子どもを測り、数値化し、標準化し、製品化し続けています。中央教育審議会は「令和の日本型学校教育」(令和3年(2021)1月26日)を掲げ、現行の学習指導要領の問題点などの総括もないまま、国の教育方針を押し付けようとしています。

これが、私たちが携わってきた公教育の結果です。私たちが関わってきた子どもたちが現在の社会を構成し、世論を形成しています。「教え子を再び戦場に送るな」というスローガンは、子どもたちの教育に届いていているのでしょうか。

2子どもの権利条約、子ども基本法を中心に

 このような状況だからこそ、私たちは子どもの権利条約からもう一度はじめなくてはなりません。7月の東京教育文化研究所総会の講演「コロナと教育」で、池田賢一さん(中央大学教授はお話の中で

「人権教育に関する校内研究で、子どもに子どもの権利を教えていいのかということが議論になったというので、権利の保有者(子ども)に権利を教えなくていいということは権利の侵害だと指摘した」というお話がありました。おとなが人権をよく理解していないということの表れではないでしょうか。また、自由主義的な教育を受けてきた大学生は自己中心的で弱者に厳しいという前提で話をしなければとお話していました。文科省の進めようとしている「個別最適」な学習はこうした傾向を強化するものであり、これに対抗するのは9月の授業講座でお話してくださった秋田俊文さんが強調していた「一緒に考える」学習なのではないでしょうか。

日本は子どもの権利条約1994年に批准しましたが、残念ながら子どもの権利が十分に守られているとは言い難い状況にあります。7月22日の東洋経済education × ICT編集部の記事には以下のようにありました。公益社団法人セーブ・ザ・チルドレン・ジャパンが、こども基本法の成立に先立ち2022年3月に実施した「学校生活と子どもの権利に関する教員向けアンケート調査」(小・中・高・高専・特別支援学校・外国人学校の教員を対象に行われた。有効回答数468人)の調査結果によると、子どもの権利の認知度に関する設問では、教員の約2割が「内容までよく知っている」と答えた一方で、「まったく知らない」「名前だけ知っている」と答えた教員も3割に達しました。調査では、子どもの権利を伝えるために、学級でどのようなとりくみをしているかについても尋ねていますが、その結果、最も多かったのは「特に取り組みはしていない」で、その割合は半数近くに上りました。学校という“教育現場”において、子どもの権利教育が十分に行われていない現状が浮き彫りになったといえます。権利教育を実施するうえで、阻害要因として上位に挙がったのは「適切な教材がない35.7%」「教員が多忙で子どもの権利についての授業を実施する準備ができない32.1%」「子どもに関心を持ってもらうのが難しい32.1%」「教育課程、カリキュラムが詰まっていて子どもの権利教える授業をする時間がない(30.8%)」でした。「自由という言葉を権利なのか、わがままなのか、自分勝手なのかの説明が子どもにどう受け入れられるかわからない」(小学校教員)といった自由記述もありました。子どもの権利が学校で教える内容として確立されていないことによる課題も示唆されました。」記事は以下のように続きます。「セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン アドボカシー部 社会啓発 オフィサーの松山晶さんは教員研修では人権教育の扱いはありますが、子どもの権利に特化した研修は行われていません。しかし研修の拡充は、教員の働き方改革とセットで考えていくべきです。教員の長時間労働が常態化している中で研修機会を増やすことは、教員の負荷をさらに増大させることになりかねません。教員が子どもの権利をよく理解し、尊重することはもちろん大切ですが、同時に健康に働けるように教員の権利も保障される必要があります。また、子どもの権利条約については小・中・高の一部の教科書の中で何らかの記述があるものの、学習指導要領では子どもの権利の扱いは明記されていないという課題もあります。また、学校で学ぶ機会があっても、条約があるという知識であったり、過酷な状況に置かれている国の子どもたちを守るためのものとして扱われたり、他者の尊重として扱われることが多いです。子どもたちが自分自身も権利を持っているのだという認識を育むことが大切です」

このような中「子ども基本法案」が2022年6月15日に国会で可決成立し、2023年4月1日に公布されます。「子ども基本法」は憲法及び国際法上認められる子どもの権利に関する国の基本方針、理念及び子どもの権利保障のための原理原則が定められ包括的に保障する法律です。「子ども基本法」の公布を一つの契機として、私たちが子どもの権利について改めて子どもたちと学び、学校教育の中で生かすことが重要であると考えます。環境は自分たちで変えることができるのだということを小学校の早い段階から大切にしていかなければなりません。現在、多くの若者は「現状は変えられないのだ」「変わるのはおそろしい」などという意識を持っているように思います。自分たちが学び生活する場である学校において自分たちの考えが反映されるような機会を多く持つことで、社会に対して主体的に行動することができるよう育つことができるのではないでしょうか。子どもの意見表明権を学校において根付かせるような実践を増やしていくべきなのだと考えます。

3平和教育

 戦争は、人権侵害の最たるものです。連日報道されるウクライナの状況から学び取れることは、戦争の悲惨さ、原発の危険性以外のなにものでもありません。 

戦後77年、戦争の体験を語れる方々が本当に少なくなりました。今年、オキナワスタディーツアーで訪れたひめゆり平和祈念資料館では入口の展示がやわらかく「今風な」イラストに変わっていました。体験者がいなくなっても、伝わるようにという意図によるリニューアルだそうです。体験を語れる方がいなくなる中で、体験していない私たちによる平和教育の重要性が増しています。

今年度から、「平和の旅」という学習会を連続的に企画しています。フィールドワークを通して、戦争の記憶をたどり、学びなおし、教材化し、次の戦争を起こさせないための平和教育を探っていきましょう。平和教育も子どもの人権から捉え直すことによって、新たな面を見出していけるのではないでしょうか。

4ジェンダー平等から

今年度、東京都「人権教育プログラム(学校教育編)」の人権課題「女性」の部分に大きな改定がありました。「男らしさ」「女らしさ」を強調し、「ジェンダー・フリー」の用語不使用と、混合名簿に否定的だった通知文を掲載しなくなり、「固定的な性別役割分担意識の解消や無意識の思い込み(アンコンシャス・バイアス)に気付くなどのための教員研修プログラム」(文科省作成)等の資料が紹介されており、「学校の中で男女平等教育について共通理解はできていますか」として、授業中の教員の「好意的差別発言」をしていないか、児童生徒の持ち物やネームプレート等を限定された色で分けていないか、これまでの慣習で出席簿等の名簿を男女別で使用していないかなどをあげています。

これは、東京都の人権意識が急に進んだわけではなく、2020年の「世界経済フォーラム」(ダボス会議)における ジェンダー・ギャップ指数 2020での結果 153か国中 121位を受けた政府の第5次男女共同参画基本計画(2020年12月25日閣議決定)によるものです。それでも、この変化は世界の人権意識の潮流を受けての変化に他ならず、ひとりひとりの人権を大事にする教育への視点となります。

5.インクルーシブ教育

8月に日本政府は「障害者の権利に関する条約」(以下、障害者権利条約)に関する初めての審査を受け、審査を踏まえ、9月9日に、国連の障害者権利委員会から日本政府に「インクルーシブ教育の権利を保障すべき」等の勧告が出されました

(a) 分離された特別教育をやめるために、教育に関する国の政策、法律、行政上の取り決めの中で、インクルーシブ教育を受ける障害のある子どもの権利を位置づけ、すべての障害のある幼児児童生徒が、すべての教育段階において合理的配慮と必要な個別的な支援を受けられることを保障するために、質の高いインクルーシブ教育に関する具体的な目標、スケジュール、十分な予算を含めた国家行動計画を採用すること。

(b) 障害のあるすべての子どもたちの通常の学校へのアクセスを確保し、通常の学校が障害のある幼児児童生徒の通常の学校への在籍を拒否することを許さないための「非拒絶」条項と政策を導入し、特別支援学級に関する通知を撤回すること。

(c) 障害のあるすべての子どもたちが、個々の教育的ニーズを満たし、かつインクルーシブ教育を確実に受けられるための合理的配慮を保障すること。

(d)インクルーシブ教育について、通常教育の教員および教員以外の教育関係者の研修を確保し、障害の人権モデルについての認識を高めること。

(e)点字、イージーリード、ろう児の手話教育、インクルーシブ教育環境におけるろう文化の促進、盲ろう児のインクルーシブ教育へのアクセスなど、通常の教育環境における拡張・代替コミュニケーション様式および方法の使用を保障すること。

(f) 大学入試や学習過程などを含む、高等教育における障害のある学生の障壁に対処する、国家的な包括的政策を策定すること。

これらの勧告に対して、永岡文科相は、国連の要請に対して否定的な考えを示しました。日本の特別支援教育は、既存の通常の教育を前提とした上で、「障害」のある子どもにどのように付加的な支援をしていくかの議論になりやすく、前提となる「通常」の教育そのものをどう変えていくかという議論にはなりにくい面があります。しかし、現在、「不登校」の子どもが20万人いることなどを踏まえると、学校は「障害」のない子どもにも、「マジョリティ」である子どもにとっても通いづらい場所になってしまっているのではないでしょうか。そのような意味でも、インクルーシブ教育は、子どもの人権を考えて、今後の学校をどう変えていくべきかの指針の一つになると考えられます。

6.これからの教育に関連して

子どもの権利という視点で見直すと、上記のような課題が見え、私たちが学ばなければならないことが見えてきます。子どもの権利を中心とした学びの再編成が必要なのではないでしょうか。

2022年5月の改正教育職員免許法の成立により、2022年7月1日から教員免許更新制は発展的に解消されました。これから、免許更新に変わる研修の指針が示され、指標が策定されます。教員の主体的自主的な研修が、研修履歴として残り、今後の教育に生かされるよう研修履歴が教員管理に用いられないよう組合はとりくみを進めていく必要があります。

全国学習状況調査の結果分析を見ると経年分析において変化が見られないという記述が多く見られます。悉皆の学力テストの役割は終わっているのではないでしょうか。これからの社会を担う子どもたちにとって必要なのは数値で測れる能力ではないのではないでしょうか。なんでも数値化し評価していこうとする教育改革の流れは東京都の高校入試におけるスピーキングテストの導入にもつながっています。どんな言語であろうと話し方を評価するというのは非常に困難なことであり、さらに評価を数値化するなど不可能といってよいようなことだと思います。外国語を用いて進んでコミュニケーションをとることができる主体を育てたいとするならばスピーキングテストの高校入試への導入は逆行するものと言ってよいでしょう。は、このような観点からも不自然であると言えます。

中央教育審議会の「令和の日本型学校教育」には、社会的視点にたった背景から子どもに育むべき資質・能力しかなく、子どもの権利としての教育という視点はありません。子どもの権利の視点から、見直したときに、どのようなことが見えてくるでしょうか。

今だからこそ、子どもたちの多様性を大切にし、人同士がつながり、平和的に様々な問題を解決しようとする社会の実現を子どもたちとともに創り上げていかなければなりません。これまで組合が教研活動で取り組んできた教育研究の価値を捉え直し、新たな教研活動に発展させていきましょう。みんなが幸福に生きていくことができるという憲法の理念を実現した社会を創るために私たち教職員はどのような教育の未来を考え、実践を作り上げていけば良いのか教研集会を通して共に考え、実践していきましょう。

教研チラシ

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