憲法を改悪させないとりくみを、地域・学校から広げ
子ども達のゆたかな学びを保障するカリキュラムづくりをすすめよう
はじめに
戦後68年、日本は経済的に豊かになりました。日本国憲法のもとで義務教育はほぼ100パーセントの子ども達が受ける事ができます。選挙権も保証され、20歳になれば投票するという参政権を行使することができます。しかし、日本を覆っているこのなんともいえない閉塞感はどこからくるのでしょうか。
安倍政権と教育政策
「戦後レジームからの脱却」を目標に登場した安倍政権は、7月の参議院選挙で大勝し、ますますその動きを活発化させています。 教育再生実行会議は、「いじめ問題の対応について(第一次提言)」「教育委員会制度等の在り方について(第二次提言)」「これからの大学等の在り方について(第三次提言)」の3つの提言を出しました。この第一次提言を受け、厳罰化や規範意識などが盛り込まれた「いじめ防止対策推進法」が、充分な国会審議を経ずに成立(2013年6月)しました。この法律は、いじめがなぜおこるのかという根本的な問いや背景に言及することなく、いじめの防止には「学校における道徳教育」や「家庭における規範教育」がまず必要であるとしています。また、第二次提言に基づき、首長が任命権を持つ教育長に教育行政の権限と責任を一元化しようとする教育委員会制度の見直しが中教審で検討されています。さらに第三次提言の初等中等教育段階からのグローバル化への対応として盛り込まれた、小学校の英語教育の教科化が、文科省内で検討されています。 自民党の教育再生実行本部からは、高校における達成度テスト、教員「インターン制度」などが提言されています。「教科書制度の在り方特別部会」では、教科書検定基準の見直しや近隣諸国条項の見直しなどを含む「教科書法」制定の検討に関する「中間とりまとめ案」が首相に提出されています。 私たちがめざしてきた子どもの権利や豊かな学びの保障とは対極にある「教育再生」という名の「教育改革」が「スピード感をもって」推し進められようとしています。彼らの教育に対する考え方は、子どもたちの置かれている実態に立脚し、子どもに寄り添うものではなく、自分たちの偏った歴史観や世界観、国家観の押し付けであり、政治が教育をコントロールしようとするものです。
安倍政権下での東京の教育
2013年4月11日に発表された「東京都教育ビジョン(第3次)」では、各所に「日本人としての自覚を促す」との文言が見受けられるなど、新教育基本法が色濃く反映されています。昨年度の中学校に引き続き小学校でも「道徳教材集」が配布されました。また、高校教科書の採択では、実教出版の教科書に対して「使用は適切でない」とする見解を各学校に伝えるなど、教育への不当な介入が行われています。これは、前述した安倍政権の「教科書法」制定の動きともつながります。「学力の向上」と「授業時数の確保」の名目による土曜日授業の実施も、当たり前の状況になりつつあります。毎年行われる「児童・生徒の学力向上を図るための調査」の実施など、「学力とは何か」を私たちはあらためて問い直さなければなりません。
「子どもの権利条約」に根ざした教育を
今年も、いじめ・体罰・虐待など、子どもの尊厳や人権がおびやかされ、自死にまで追い込まれた事例がおきました。日本の子どもの相対的貧困率は15,7パーセント(厚労省10年公表)で、7人に1人の子どもが貧困状態にあり、進学をあきらめるなど、充実した学校生活どころか将来に夢を描けない子ども達がいます。また、東日本大震災や東電福島第一原発事故により、2年以上経過した今も依然として不十分な学習環境におかれ、避難生活の長期化により心と身体のケアが必要な子ども達がいます。 日本は子どもの最善の利益を保障する「子どもの権利条約」を批准しているにもかかわらず、子どもの権利を保障する教育が行われているとはいえません。国連子どもの権利委員会からも、再三にわたり競争主義的な教育制度の見直しが勧告されていましたが、2010年の勧告においては「高度に競争的な学校環境が就学年齢層の子どものいじめ、精神障害、不登校、中途退学および自死を助長する可能性があることを懸念する」ことが表明されています。 成果主義・競争主義の強化は教育を歪めます。厳罰化や規範意識の強制では、子どもの抱える問題の本質に迫ることはできないでしょう。今必要なのは、価値観の押し付けではなく、教育格差を解消する具体的な手立てです。そして、「子どもの権利条約」にもとづいた、子どもの学ぶ意欲・主体的なとりくみを引き出すゆたかな学びを保障する教育こそが必要です。
日本国憲法の精神にもとづいた教育を
今、憲法を改悪しようとする動きが大幅に加速しています。安倍首相は、集団的自衛権の解釈見直しと憲法「改正」に着手しようとしています。自民党の「日本国憲法改正草案」は、「国防軍の創設」「集団的自衛権の行使」「日の丸・君が代の遵守義務」「『公益及び公の秩序』による人権制限」「公務員の権利制限」を謳い、国民の憲法尊重擁護義務も追加しようとしています。これは、国家権力を制限するという立憲主義を否定し、平和主義を脅かし、国民を統制しようとするものです。96条「改正」による発議要件緩和は、9条「改正」につながる危険性があります。「教え子を再び戦場に送らない」ためにも、憲法改悪の動きを許してはなりません。
そのために、私たちは「日本国憲法」をしっかり学ばなければなりません。東京教育文化研究所(東京教研)では9月に『私たちの憲法』という小冊子を作りました。「日本国憲法」と「自民党憲法草案」を対比させ、分かりやすい言葉で解説されています。各支部や分会で活用し、「日本国憲法」の精神をしっかり伝えていきましょう。 また、今回の教研集会全体会では、「どうする、どうなる、日本国憲法~憲法改悪でこれだけ変わる教育・くらし~」と題して、弁護士の伊藤真さんに、自民党の憲法草案と私たちの生活との関係についてお話していただきます。教え子を戦場に送った、あの時代をくりかえさせないためにも、しっかり学習しましょう。
これまで私たちは、憲法・子どもの権利条約の具現化をめざし、子どもに寄り添う教育をすすめてきました。安倍政権が行おうとしている競争主義的な現場を無視したトップダウンの「教育改革」は、学校を混乱させるだけであり、子どものゆたかな学びや育ちにつながりません。今、まさに教育の危機です。実践の交流を通して仲間のつながりを改めて確認し、職場から支部へ、支部から東京全体へと連帯の輪を広げていきましょう。子どもたちに向き合い、寄り添う教育実践をすすめるとともに、学校現場からの教育改革をめざし、広範な市民との社会的対話を深めていきましょう。