HOME教育研究2014年度 東京教組教育研究集会 基調報告

2014年度 東京教組教育研究集会 基調報告

2014年度 東京教組教育研究集会 基調報告

子ども達を戦争にまきこむ動きを阻止し
子どものゆたかな学びを保障する
カリキュラムづくりをすすめよう

 1、      はじめに

 連続テレビ小説「花子とアン」の脚本家である中園ミホさんが、先日NHKの番組で「太平洋戦争に突入する前のあたりを書くのが、本当につらかった。苦しかった。今の日本の情勢にあまりに似ているから」と語っていました。

 「花子とアン」では、子ども達の日常生活の中に戦争が忍び込んでくる様子が度々描かれています。

 飼っていた柴犬がお国のためにといって軍用犬として連れて行かれ娘が悲しむシーン。英語の本がたくさんある花子の家に「非国民」といって少年が石を投げつけるシーン。おじいちゃんが「グッドモーニング」と挨拶したら孫が「シー」とたしなめるシーン。

 私たちは同じような状況に、決して二度と子ども達を追い込んではならないのです。

 2、安倍政権がねらう戦争への道

 201471日、安倍政権は「集団的自衛権」の行使は憲法上許容されていないとする、これまでの憲法解釈を逸脱する閣議決定を多くの国民の反対や不安の声を無視し行いました。「集団的自衛権」は限定的であるなどといっていますが、政府の用意した想定問答集では今回盛り込まれなかったはずの「集団安全保障」も憲法上許容されうるとしているように、その狙いは明らかです。「集団的自衛権」を行使するということは中立の立場を捨て、戦争に参加すること以外のなにものでもありません。そして戦争が「集団的自衛権」の行使として正当化されてきたことを見逃すわけにはいきません。

 日教組は、アジア太平洋戦争にお国のためにとたくさんの教え子を戦場に送ってしまったことへの反省をこめ、1951年、「教え子を再び戦場に送るな」のスローガンを採択しました。当時日本は朝鮮戦争への日本への波及が心配され、日米安全保障条約の批准をめぐって大激論がかわされていました。こうした緊迫した状況の中で私達日教組が採択した「教え子を再び戦場に送るな」のスローガンを今こそ守りぬかなければなりません。

3、安倍政権がおしすすめる「教育再生」政策

 安倍政権の「教育再生」政策は、国家主義的な教育内容統制が先行して実施されようとしています。その最たるものが「道徳」の教科化です。2014年の4月に「心のノート」を改定した「私たちの道徳」が小中学校全児童生徒に配布されました。これは、学習指導要領の道徳の内容として示されている4項目に基づいて編集され「心のノート」に読み物教材としての偉人伝を加えたものとなっています。安倍政権は2014年秋を目途とした中教審答申を経て学習指導要領を改訂し2015年には「特別の教科・道徳」として実施するとしています。そして、今まで道徳が教育課程の中に位置づけられていなかった高校においても、新学習指導要領で「公共」の設置が計画されており、従来社会問題として扱うべき内容を自己責任の問題として道徳的に扱うということになります。またグローバル人材育成の名の下に、小学校における英語教育の早期化、教科化も有識者会議で議論されており、中教審での審議を経て2016年度以降に学習指導要領を改訂し2020年度全面実施をめざしています。

 安部政権の「教育再生」改革のもうひとつの柱が新自由主義的政策です。教育制度の多様化という名目の6.3.3.4制の見直しや飛び級制度の導入。これは早期から子どもを教育制度の中に組み入れ子どもの選別を可能にしてしまう危険性をはらんでいます。これと大きくつながっているのが「全国学力・学習状況調査」です。今年度は全員実施だけでなく、昨年度から一歩進んで学校別の平均点などの結果公表を可能にしました。この動きは子ども間、教員間、学校間の点数競争を激化させ、本来の教育とは無縁のテストの点数を目的とする教育に変質させる結果を生み出していきます。さらに小中高卒業時の学力評価、達成度試験、高校在学中に「達成度テスト」を実施するなど多種多様のテスト体制が計画されています。

 また都教委は東京都独自の学力・学習状況調査の結果をへて、より一層の基礎的学力を補充するという理由で、「ベーシックドリル」を作成し全小学校に配布しました。様々な問題が指摘されているにもかかわらず、多くの学校で使用せざる得ない状況になっています。

 私たちは「教育とは何か」「学力とは何か」の原点に立ちかえり、子どもの学ぶ意欲や学びあう人間関係づくりなど、子どもが主体となる「ゆたかな学び」を保障していかなければなりません。

4、「子どもの権利条約」に根ざした教育を

 安倍政権の社会保障政策は「自助」を中心とした家族による支えあいを前面に打ち出しています。生活保護水準の切り下げはその象徴で2015年までに3段階で、一世帯あたり平均6.5%最大10%と過去最大の引き下げとなります。憲法25条の生存権が確実に脅かされています。所得格差が教育格差となる17歳以下の子どもの貧困率も依然として高く、6人に1人が貧困状態にあり、貧困の連鎖も社会問題化しています。給付型奨学金とともに子どもの貧困対策法を実効あるものにしていくために、子どもの権利条約、国際人権規約の具現化を早急に進めていかなければなりません。また、子どもの虐待件数は過去最大となり、いじめや不登校の問題も依然喫緊の課題です。子どものおかれている状況を子どもの人権の視点から捉えなおしていくことが必要です。子ども達にとっての「ゆたかな学び」は、多くの人々ともに生き、未来に向かって歩むために必要なものです。この学びにより身につける学力は、憲法の理念の実現につながり、平和・人権・環境・共生を尊重する社会を主体的に築いていく力となるものです。この力は「子どもの権利条約」のもとで学校現場を含む教育の場でおとなによって保障されることが大切です。今こそ私たちは子ども達の「ゆたかな学び」の必要性を地域・保護者に訴えていかなければなりません。

5、 歴史を学びなおし日本国憲法の精神にもとづいた教育を

 私たちはこれまで「民主的な国家を建設し、世界の平和と人類の福祉に貢献する」という日本国憲法の理念と、子どもの権利条約の確立をめざし実践を重ねてきました。過去の歴史の中にも、「閉塞感」を打破するために「ナショナリズム」が台頭しそれが戦争と結びついていった事例は数多くありました。今こそ私たちは歴史に学ばなければなりません。今、日本社会に求められているのは「個人の尊厳」を追求する憲法理念の実現であり、未来を担う子ども達の尊厳を守ることです。

 今回の教研集会の全体会では、「戦後史の中から『靖国』問題を考える」と題して恵泉女子大学名誉教授の内海愛子さんにお話しをしていただきます。東京招魂社として建てられた靖国神社は、戦前は国家神道の柱として「靖国の英霊」になることを最大の美徳とし、侵略戦争に人々を動員してきました。戦後は一般の宗教法人になりましたが、1978年にA級戦犯を合祀し、過去の侵略戦争を肯定する動きへとつながっていきます。1985年には当時の中曽根首相が公式参拝し、アジア諸国との関係が悪化していきます。今一度戦後史にたちかえり、教え子を戦場に送った、あの時代をくりかえさせないためにも、しっかり学習していきましょう。

 そして、私たちが今まで積み重ねてきた「平和」「人権」「環境」「ジエンダー平等」などの実践を貴重な教育財産として次世代に引き継いでいくことは急務です。実践の交流を通して仲間のつながりを改めて確認し、職場から支部へ、支部から東京全体へと連帯の輪を広げていきましょう。