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教育研究

東京教組は、各教科・領域の教育研究を年間を通じて行っています。
毎年、10月には、教育研究集会を開催し、全都の教育研究をまとめて発表します。

教育研究資料

 

         

2017年度  東京教組教育研究集会  基調報告(案)

 

 「教え子を再び戦場に送るな」

「改憲」を許さず、子どもの人権を保障しゆたかな学びを構築するカリキュラムづくりをすすめよう

 

1、        はじめに

20179月、チビチリガマが荒らされるという事件が起きました。1945年、あの沖縄戦の中で集団自決が行われたこの場所が、荒らされたというのです。そしてつかまったのは、なんと沖縄の少年達。目的は「心霊スポットでの肝試し」ということでした。この事件から見えてくるものは何でしょうか。沖縄は、戦争中本土決戦の準備が整うまでの捨て石にされました。現在も沖縄の実態は同じです。

 

2、いよいよ動き出した「改憲」

 この「戦争風化」の動きと呼応するかのように、安倍政権は201312月には秘密保護法、2015年には戦争法、そして今年20176月には共謀罪を、いずれも多くの国民の反対を押し切り、強行採決により成立させました。そして改憲の準備も着々とおしすすめています。20163月には参議院予算委員会で「憲法改正は私の在任中に成し遂げたい」と発言しました。その後もおりにふれ、「憲法改正」への発言を繰り返し、201753日の憲法記念日には、憲法改正を2020年に施行すると、その日程にまで言及しました。そして臨時国会では、冒頭解散するという暴挙に出ようとしています。その先にあるのは憲法92項に自衛隊を明記するというところから始まる「改憲」です。

 

3、「新学習指導要領」、そして道徳の教科化

  20173月文科省は幼稚園教育要領、小・中学校学習指導要領を、4月には特別支援学校幼稚部教育要領、小・中学部学習指導要領を告示しました。その内容は「育成すべき資質、能力」が強調されており、大綱的基準である学習指導要領に「何を学ぶか」だけでなく「主体的・対話的で深い学び」を主とした「どのように学ぶか」や「何ができるようになったか」までを規定するものとなっています。

 これにより、一層「点数学力」向上にむけて子ども達が追い立てられるものにならないか大きな危惧を感じます。そして「学びの質と量を確保する」として、学習内容の削減、精選を行わずに、小学校での英語の教科化、プログラミング教育、高校での教科、科目の再編等新たな内容が付加されようとしています。移行措置期間の内容を見ると小学校での英語の教科化をめぐっては、時間の確保のために総合的な学習の時間の授業時数から15単位時間を越えない範囲内で、減じる事ができるとされています。総合的な学習の時間は、子どもの深い学びを追求することができる大切な教科です。この時間を削ってまで「外国語教育」を推進するということは大きな問題です。

また2017年夏、2018年先行実施される小学校の道徳教科書の採択が各教育委員会で行われました。「道徳」の教科化は2016年に出された中央教育審議会の論点整理によるものとされています。それによると、子ども達が「どのように社会や世界とかかわり、より良い人生をおくることができるか」が重視されています。つまり、この子ども達が社会の急激な変化の中「より良い人生」をおくるために「道徳性の育成」が求められるというのです。このことの具現化が「道徳の教科化」とされています。しかしこれは、子どもの内心の自由を破壊しうる大きな危険性をはらんでいます。だからこそ子どもの視点に立った、子どもが主体となる教育実践・研究を続け、この誤った「教育改革」にしっかりと対峙していかなければなりません。

 

4、今こそ「人権」を大切にした教育を

  20164月「障害者差別解消法」が施行され、公立学校では「合理的配慮」は義務となりましたが、自治体や教職員の理解は十分ではありません。2006年に国連で採択された障害者権利条約は「障害者」を排除しないインクルーシブな社会の構築を求めています。そのためには「障害者」を社会から排除する社会的障壁を取り除く事が必要であり、「障害者」に対する「合理的配慮」が保障されなければなりません。「障害」を理由に区別・排除・制限することは差別であり、全ての子どもが共に学ぶ事は当然の権利です。2017年度には発達障害等の通級指導充実のための加配定数が基礎定数化されましたが、通級等の特別な「場」の充実ではなく、共に学ぶために通常学級での学びを最優先すべきで、安易に子どもや保護者の意に反した分離や選別が行われないようにしていくことが重要です。「新学習指導要領」がめざす産業界での「活躍」に合わない子どもを分離・排除するのではなく、多様性が尊重された、全ての子どもがともに生きていくことができるインクルーシブな社会の構築こそが今必要です。

  201612月に「教育機会確保法」が制定されました。この法律で夜間中学が法的に位置づけられましたが、一方不登校の子どもが法的に定義され別施設・別教育課程に分離・排除される危険性が懸念されます。現在12万人(2015年文科省調査)を超える子ども達が不登校になっておりこの子どもたちの学習権を保障することは喫緊の課題です。不登校は子どもの「問題行動」ではなく「誰にでも起こりうること」です。安倍政権は、国連子どもの権利委員会の指摘を真摯に受け止め「グローバル人材の養成」を教育目標に掲げ「学力」向上に重点を置く競争的な学校環境を見直す必要があります。一方、夜間中学については生徒の背景に寄り添いながら、支援のあり方を考えることが重要であり、そこに学ぶ全ての人の学習権を保障するとりくみが必要です。

  20179月、朝鮮学校無償化除外に対する裁判に対し、東京地裁は「除外によっても教育を受ける権利は何ら制限されない」とする判決を下しました。国連の社会権規約委員会などが朝鮮学校無償化除外について明らかに差別であると勧告していましたが、それに逆行する、最悪な判決であり断じて許すことができません。2016年は「ヘイトスピーチ解消法」や「部落差別解消法」など、個別の法律の成立で一定前進もありましたが、国連の人権諸条約を誠実に履行するためにも、差別を明確に禁止する包括的な人種差別撤廃基本法の制定をめざしていかなければなりません。

  相模原での殺傷事件から1年、私たちは何をその事件から学んだのでしょうか。この事件を風化させないためにも、私たちは差別を許さず、インクルーシブな社会の担い手となる子どもたちの育成をめざす、教育実践をおしすすめていかなければなりません。

 

5、「子どもの権利条約」に根ざした教育を

  2016年、国民生活基礎調査が公表され、子どもの貧困率が13.9%になり厚生労働省は「改善」してきているとしました。しかし依然として7人に1人の子どもは貧困状態です。またユニセフの「貧困の深さ」に関する調査(20164月)によれば、日本は子どものいる世帯の所得格差が、41か国中8番目に大きいことが指摘されています。経済格差が教育格差を生み、子どもの学習権がおびやかされています。就学援助や給付型奨学金のさらなる拡充、高校授業料無償制度の復元など

  「子どもの貧困対策法」を実効あるものにしていくために、子どもの権利条約、国際人権規約の具現化を早急にすすめていかなければなりません。

   また、いじめ、虐待などの件数は依然として高い数値を示しています。過度の競争的な環境が子どもを追い詰め、いじめや虐待、不登校につながっていると「子どもの権利委員会」から指摘されているにもかかわらず、全国学力調査や各種の学力テストの結果公表などの競争主義が、学校に持ち込まれているのが実情です。

   また少年法の適用年齢の引き下げが20162月に法制審議会に諮問され、現在も議論が続いています。子どもの権利委員会の日本政府報告書では少年法の厳罰化について「罪を犯せば処罰されることがあることを明示することにより、規範意識を育て、社会生活における責任を自覚させる必要があると考えられたため」としています。罰を与えられることを知れば「規範意識」が育ち「健全育成」できるとするのは、「いじめ」は「規範意識」不足で起こるから「道徳教育」を強化すればよいということと通底しています。貧困、虐待、差別など、子どもたちの背後にある様々な社会的な問題や子どもの人権が十分に保障されていないという現状を解決しようとせず、「規範意識」という個人の問題に帰すことで行政の無策を覆い隠しているようにしか見えません。今こそ子どものおかれている状況を子どもの人権の視点から捉えなおしていくことが必要です。それは、憲法の理念の実現につながり、平和・人権・環境・共生を尊重する社会を主体的に築いていく力となるものです。私たちは子ども達の「ゆたかな学び」の必要性を地域・保護者に訴えていかなければなりません。

 

6.そして私達が考えとりくむべきものは何か

 

チビチリガマを荒らした少年達。その背後にあるものは何でしょうか。ガマを荒らしたその行為は許されるものではありません。しかしそのような少年を生み出したこの社会の有り様をしっかり捉えなおすことが大切です。今、日本社会に求められているのは、厳罰を課せば「規範意識」が育ち、子どもたちの「健全育成」がはかれるなどという安易な考えでなく、「個人の尊厳」を追求する憲法理念の実現であり、未来を担う子ども達の尊厳を守ることだと訴えていかなければなりません。

今回の教研集会全体会では、日本の米軍基地の約75パーセントが集中する沖縄で、抵抗する人々の姿を撮り続けている映画監督の三上智恵さんに「今、伝えたい沖縄、平和への想い」と題して講演していただきます。平和を守り続けるにはどうしたらよいか。戦争へと向かう国を止めるためには、どのように行動すればよいかを一緒に考えていきましょう。

そして、私たちが今まで積み重ねてきた「平和」「人権」「環境」「ジエンダー平等」などの実践を貴重な教育財産として次世代に引き継いでいくことが大切です。実践の交流を通して仲間のつながりを改めて確認し、職場から支部へ、支部から東京全体へと連帯の輪を広げていきましょう。